ハリモグラは原始的な特徴を持った哺乳類です。
オーストラリアという、早くに大陸から分離した環境だからこそ生き残れた、奇跡とも言える動物です。
ハリモグラは世界的に珍しい動物がたくさんいるオーストラリアでも、特に珍しい特徴を持っています。
なんと、哺乳類なのに卵を産むんです。
普通に考えて、卵を産む動物が我々と同じ哺乳類の仲間だとは信じられませんよね。
でも、ハリモグラは立派な哺乳類なんです。
世にも珍しい卵を産む哺乳類「ハリモグラ」の知られざる生態に迫ってみましょう。
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ハリモグラはどんな動物?
Foto by Wikimedia
ハリモグラは単孔目・ハリモグラ科・ハリモグラ属の哺乳類です。
単孔目とは尿道、肛門、生殖口が1つにまとまった「総排出腔(そうはいしゅつこう)」を持つ哺乳類のグループで、別名カモノハシ目とも言います。
単孔目にはハリモグラの仲間が全部で4種、そしてカモノハシが含まれます。
ハリモグラの平均的な全長は30~45cmほどで、ミユビハリモグラは平均的な大きさのハリモグラより若干大型になります。
吻(クチバシ)の長さは7.5cmほどになり、全長に比べても吻が長いことが分かります。
体重は2~7kgほどです。
寿命は野生の個体で45年ほどです。
意外にも長生きなんです。
オーストラリアを代表するような動物なため、オーストラリアの5セント硬貨にはハリモグラが描かれています。
ハリモグラの生息地
オーストラリアの砂漠地帯を除く全域、ニューギニア南西部の高山地帯や海岸などに生息しています。
ハリモグラはハリネズミとは全く違う
ハリモグラは背中に大量のトゲを持っています。
このトゲは毛が変化したものだと言われていて、危険が迫ると体を丸めて身を守ります。
トゲには1本1本に筋肉がはしっていて、それぞれ独立した動きをさせられます。
同じような見た目と習性を持っているハリネズミとよく比べられますが、ハリモグラはハリネズミよりももっと原始的な動物です。
人間よりも古く、地球上にいる哺乳類の祖先的な存在です。
また、モグラとも全く違います。
ただ穴を掘る習性があるだけで、つけられた名前ですね。
ハリモグラはハリネズミともモグラとも違う、分類学的に見ても全くの別種なんです。
ハリモグラの食性
ハリモグラの特徴と言えばトゲ以外にも、とんがった口がありますよね。
おちょぼ口で本当にかわいいです。
この口は5mmほどしか開かないみたいです。
この口には口の長さに合ったベロが入っています。
アリクイのベロに似ていますね。そのため、以前はアリクイの仲間だとも思われていたそうですよ。
食べるのもアリやシロアリです。
頑丈な前足でアリの巣を掘って、長いベロでアリをなめるように食べます。唾液はとってもネバネバしていて、アリを絡めとります。
歯は持っていないですが、クチバシの奥に固い部分があるため、アリをすり潰して食べることができます。
本当にアリクイみたいですね。
ハリモグラの方が古い生き物なので、アリクイの方を「ハリモグラみたい」って言うのが正解なんですが、、、
アリさえいればどこでも生きていけるみたいですよ。
たくましいですね。
後ろ足が反対!?
ハリモグラはモグラみたいな足を持っています。
前足は穴を掘るのに適していて、どこにでもすぐに穴を掘ってしまいます。
哺乳類なんですが、体温調節がなかなか下手で、暑さには弱いようです。
「暑くなってきたなー」って思ったら、すぐに穴を掘って涼みます。
寒さには強いのですが、あまりにも寒い地方の場合は冬眠するみたいです。
ハリモグラの不思議なところは、後ろ足のつま先が反対方向を向くことです。
横から見ると、どっちに進むか分からないような足の形です。
Foto by Wikimedia
この後ろ足は毛繕いをするのに適していて、トゲの隙間でも手入れをすることができます。
そのため、英語で「Grooming claw(毛繕いをする爪)」と呼ばれています。
ハリモグラは卵を産む!?
ハリモグラの出産方法は卵生です。
哺乳類では珍しく、直径14~16㎜の弾力のある卵を1つ産みます。
卵は母親のお腹にある袋「育児嚢(いぐしのう)」で大切に温められ、10日ほどで孵化します。
ちなみにハリモグラの育児嚢は有袋類が持つ完全な袋状ではなく、お腹の辺りがくぼむようにできています。
くぼみの回りの筋肉が引っ張り合うようにしてくぼみができているんです。
孵化した子どもはトゲが成長する2~3か月間で育児嚢から出てきますが、それまでは袋の中でお乳を飲んで成長します。
ハリモグラには乳首が無く、子どもは母親の乳腺から染み出てくるお乳を、なめるように飲みます。
授乳期間は200日程度で、子どもは乳離れと共に巣を出ていきます。
ハリモグラの性成熟は5~12年です。
また、繁殖頻度は2~6年に1回とされています。
ハリモグラが卵を産む理由は?
ハリモグラが卵を産んで繁殖する「卵生」なのはなぜでしょうか?
簡単に答えると、ハリモグラがより原始的な動物だからです。
私たち人間やハリモグラなどの哺乳類の祖先は爬虫類です。
大昔に爬虫類から分離したのが哺乳類の始まりです。
爬虫類が卵生なのは納得できますよね。カメやヘビの産卵を見れば分かると思います。
爬虫類から分離したばかりの哺乳類も卵生だったと考えられています。
実は卵生か胎生かは、哺乳類かどうかを決定する理由にはならないんです。
哺乳という漢字にはお乳で子どもを育てるという意味があります。
つまり、赤ちゃんを母乳で育てる動物を哺乳類に分類しているんです。
ハリモグラには乳首こそありませんが、子どもにお乳を与えて育てます。
ハリモグラは立派な哺乳類なんです。
哺乳類特有の体毛を持っていますし、心臓は2心房2心室です。
血液も循環していますし、呼吸には横隔膜を使います。
私たちと同じ、哺乳類にしかない特徴を持っているんです。
どうしてハリモグラは絶滅しなかったの?
ハリモグラが生息しているオーストラリア大陸は、早くに他の大陸から分離した大陸です。
オーストラリアにはハリモグラの他に、カモノハシという単孔類が生息しています。
実は単孔類は大昔に有袋類によって、ほとんどが絶滅に追いやられているんです。
繁殖能力が単孔類より有袋類の方が優れていたため、生存競争に敗れてしまったんです。
しかし、カモノハシは水中で暮らしています。
そのため、有袋類が繁栄した影響を受けず、絶滅から逃れることができたんです。
ハリモグラはカモノハシが絶滅から逃れた後に、カモノハシから分離したと考えられています。
1部が陸に進出し、トゲやアリを食べることを身に付け、タフに生きていく手段を手に入れたんです。
現在ハリモグラは絶滅の危機が無いほど、広い範囲に存在しています。
ハリモグラに会える動物園
現在日本でハリモグラを飼育している動物園は3か所あります。
・東山動植物園(愛知県名古屋市)
・上野動物園(東京都上野)
・沼津港深海水族館(静岡県沼津市)
東山動物園のハリモグラ
メスが2頭、飼育されています。
上野動物園のハリモグラ
2013年12月13日よりメスのハリモグラを展示しています。
沼津港深海水族館のハリモグラ
オス1頭メス2頭のハーレムな状態で飼育されています。
ちなみに沼津港深海水族館ではハリモグラの人形も販売されています。
まとめ
・ハリモグラはオーストラリアやタスマニア島、ニューギニア島に幅広く生息
・全身にトゲが生えているが、ハリネズミとは別種
・哺乳類の祖先的な位置にいる原始的な動物
・哺乳類なのに卵生
・日本では3か所の動物園で飼育されている
ハリネズミやヤマアラシという動物を見慣れているため、ハリモグラが原始的な動物だとは気が付きませんでした。
一見普通な感じの動物ですが、フタを開けてみると卵生という、とても珍しい特徴を持っていたんですね。
オーストラリアは原始的な生き物の宝庫です。
有袋類だけでも珍しいのに、単孔類というさらに珍しい動物が暮らしています。
ハリモグラの研究が進めば、哺乳類がどのように進化、繁栄してきたのかが分かりそうですね。
楽しみです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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