カブトムシやクワガタムシ、カナブンなど、甲虫と呼ばれる虫のグループは、とても硬い皮を持っていますよね。
その中でも世界一硬い虫と言われているのが「クロカタゾウムシ」です。
その固さは規格外で、
・ステンレスの針が刺さらない
・鳥に食べられても消化されない
・踏まれても平気
などなど、虫とは思えないほどです。
クロカタゾウムシの固さの秘密とは?
どんなところでどんな暮らしをしているのでしょうか?
世界最硬の虫「クロカタゾウムシ」に迫ります。
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クロカタゾウムシの特徴
クロカタゾウムシは体長11~15mmほどのゾウムシの仲間です。
全身真っ黒で、ひょうたんみたいな形をしています。
体に比べると足が長い印象です。
ゾウムシはその名の通り長く伸びた口部分がゾウの鼻に見えるのですが、クロカタゾウムシの口は他のゾウムシに比べると少し短めですね。
「若干口が出ているかなー」くらいです。
クロカタゾウムシの生息地
クロカタゾウムシは沖縄の八重山諸島に生息しています。
カタゾウムシの仲間は虫王国であるフィリピンやニューギニアなどの東南アジアに、約420種類ほどが生息しています。
八重山諸島はカタゾウムシが生息している最も北の地域で、クロカタゾウムシはこの地域のみに生息している固有種です。
毎年5月~9月に活発に動き出します。
それ以外の時期は幼虫やサナギの状態で過ごすようです。
クロカタゾウムシの食性
クロカタゾウムシは草食性で、主に葉っぱを食べています。
八重山諸島に多く生えているスダジイ、カンコノキ、リュウキュウエノキなどの葉っぱを食べていますが、木の幹や根を食べることもあります。
マンゴー畑が多い八重山諸島では、クロカタゾウムシによるマンゴーの木の食害が問題視されています。
特産品であるマンゴーの品質にも関わってくるため、害虫として駆除されることもしばしばです。
クロカタゾウムシは甲虫の仲間
クロカタゾウムシはコウチュウ目・ゾウムシ科の昆虫です。
コウチュウとは甲虫のことで、カブトムシやクワガタムシ、カナブン、カミキリムシ、テントウムシなどのグループです。
動物の中で、最も数が多いと言われているのが昆虫の仲間ですが、コウチュウ目はその中でも最大です。
地球上で最も成功しているグループだと言えますね。
甲虫の特徴はその硬い表皮です。
この表皮は外骨格と呼ばれ、甲虫が身を守るために身につけた最大の武器です。
通常の昆虫の翅は前翅と後翅、つまり前と後ろに翅が分かれていているのが特徴です。
しかし、甲虫の翅は前翅が後翅を覆うようになっています。
これを「鞘翅(しょうし)」といいます。
そのため、コウチュウ目は鞘翅目とも呼ばれています。
鞘翅には後翅や柔らかいお腹を保護する役割があります。
クロカタゾウムシの翅は開かない!
甲虫は鞘翅を開き、薄い後翅を羽ばたかせることで飛ぶことができます。
鞘翅は羽ばたかせることはなく、バランスを維持するのに役立っているそうです。
しかしクロカタゾウムシは、鞘翅がくっついていて開くことができません。
上の写真を見れば分かりますが、クロカタゾウムシは鞘翅の境目がはっきりしていません。
これはカタゾウムシの仲間やオサムシなどに見られる特徴で、飛ぶ代わりに固さを追究した結果です。
飛ぶことで身を守る昆虫もいれば「飛ばなくてもいいからとにかく固くなりたい」と思って、進化した昆虫もいるんですね。
クロカタゾウムシはどれくらい硬いの?
いくらクロカタゾウムシが硬いと言っても「たかが1.5cmくらいの小さな虫。そんなに大騒ぎするほど硬いわけない」と、思ってしまいますよね。
しかし、クロカタゾウムシの固さは桁違いです。
もはや虫とは思えないほどです。
どらだけ硬いかというと、
・ステンレス性の針が刺さらず、標本にするときはテープでとめないといけない
・鳥に食べられても固すぎて消化されずにそのまま排出される
・死体すら指で潰せないほどカッチカチ
などなど、規格外の固さです。
針が刺さらない
虫を標本にするときは見た目の問題もあるため、細いステンレス針をさして固定します。
しかし、クロカタゾウムシには細い針など貫通しません。
コンパスのような太くて頑丈な針でしか皮膚を貫けないんです。
そのため、クロカタゾウムシを標本にする時は、セロテープでとめるという、ちょっとカッコ悪い方法で体を固定します。
太すぎる針だとクロカタゾウムシの体がちぎれてしまう恐れがあるからです。
鳥も食べない
クロカタゾウムシがこれほどまでに固くなったのは、身を守るためです。
通常、虫の一番の天敵である鳥ですらも、クロカタゾウムシを食べることはできません。
食べても消化することができないんです。
最終的には、そのまま糞として排泄されるんだとか、、、
固すぎますね。
食べても意味ないので鳥も食べないってことです。
指で潰せない!
クロカタゾウムシに標本用の針が通らないことは説明しましたね。
クロカタゾウムシは死体ですら固さを維持しているんです。
人間と言えど、クロカタゾウムシを潰すのは簡単ではありません。
針が通らないんですからね。当たり前です。
東南アジアの先住民たちは、カタゾウムシを潰せるかどうかで指の力を試しているんだとか!
屈強な肉体を持つ先住民ですら、その固さを認めているんですね。
これほどの体格差があっても、クロカタゾウムシを攻略するのは難しいようです。
クロカタゾウムシの固さは細菌のおかげ!?
これほどまでの固さを持つクロカタゾウムシですが、近年その固さの秘密が解明されました。
なんと細菌が関係していたんです。
クロカタゾウムシの体内には「ナルドネラ」という細菌が住みついています。
このナルドネラは他のゾウムシにも見られ、1億年以上も昔から、共生関係にあったと言われています。
産業技術総合研究所などの研究チームは、このナルドネラにクロカタゾウムシの固さの秘密があると見て、研究、分析しました。
その結果、ナルドネラはクロカタゾウムシの外骨格の元になるキチン質とタンパク質を結びつける「チロシン」という物質を作り出していることが分かりました。
ナンドネラを抗生物質によって減らされたクロカタゾウムシの幼虫は、成虫になってもフニャフニャな外骨格しか作ることができなかったそうです。
さらに、ナンドネラが生息できない30℃の室温でクロカタゾウムシの幼虫を育て、ナルドネラを完全に死滅させてしまうと、幼虫は成虫になる過程のサナギの段階で死んでしまったそうです。
クロカタゾウムシがあれほど固くなるためには、大量のチロシンが必要です。
しかも、チロシンには外骨格を作る役目もあるため、ナルドネラが全くいない状態だと、成虫になることができないんです。
クロカタゾウムシと人間の関係
クロカタゾウムシの固さの秘密を解明することの背景には、彼らが害虫として扱われていることがあります。
クロカタゾウムシはマンゴーなど、島民にとって重要な農産物の木を食い荒らしてしまうんです。
そのため、現地では様々な駆除が行われてきました。しかしクロカタゾウムシの固さもあり、なかなか効率の良い駆除方法がなかったんです。
天敵がいないクロカタゾウムシです。エサさえあれば増え続けてしまいます。
農薬は農産物や他の生き物にも悪影響を与えてしまう可能性があるため、好まれませんでした。
そこで、産業技術総合研究所の研究チームが解き明かした「クロカタゾウムシの固さの秘密」が役に立つわけです。
ナルドネラのみをターゲットとした薬品であれば、農産物や他の生き物には影響を出さずに、クロカタゾウムシのみを駆除することができる可能性があります。
農薬による様々な悪影響の心配が無くなります。
また、ナルドネラなどの共生細菌を持っている害虫は他にもいます。
ゴキブリやシロアリなどの厄介者達です。
クロカタゾウムシの駆除方法が他の害虫の駆除にも応用できるため、さらなる研究が進められています。
害虫対策には科学的な駆除だけでなく、天敵を持ち込むことも有効とされます。
特定外来生物「ヒアリ」はノミバエの一種が天敵です。
このハエを人為的に解き放つ計画も進められているんです。
クロカタゾウムシがいる動物園
クロカタゾウムシは東京の多摩動物公園にいます。
ここの昆虫館で飼育されているんです。
クロカタゾウムシは沖縄に生息していますが、森林地帯にいることが多く、肉眼で観察するのはなかなか難しいでしょう。
本物を確実に見られる昆虫館が都内にあるのは嬉しいですよね。
多摩動物公園の昆虫館は日本の豊かさを表すような昆虫がたくさんいますので、昆虫好きならおさえておきたいスポットです。
まとめ
クロカタゾウムシは飛ぶことの代わりに最強の固さを身に付けた、防御を極めた昆虫です。
その固さは天敵すらいなくなるほど!
日本にも生息しているということで、八重山諸島に行った際にはぜひ探してみたいですね。
潰したりはしないんですけど、その固さを体験してみたいです。
皆さんもクロカタゾウムシがいる場所に行った際には、探してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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